採択者の声

ゆうらん古書店

地域文化を豊かにする古書店 ゆうらん古書店

  • 世田谷区 経堂西通り商店会
  • 若手・女性
  • 開業

開業できたのは経堂の方々の協力があったから。
他店とゆるやかに支え合えるのも、商店会の魅力です。

事業内容をお聞かせください

小田急線・経堂駅近くの商店街で古書店を経営

経堂に住み始めたのは、もう20年近く前のことです。当時の経堂には、経堂駅北口の「経堂すずらん通り商店街」と南口の「経堂農大通り商店街」のそれぞれに素敵な古書店があり、僕はそこに立ち寄っては幸せな時間を過ごしていました。また、経堂で長く暮らすうちに行きつけの飲食店ができ、そこでいろいろな人と顔なじみになっていきました。そうするうちに自然と、経堂の町に愛着を感じるようになったわけです。

経堂の町で知り合って仲良くなった方々には、個人店を営んだりフリーランスとして働いたりしている人も珍しくありませんでした。当時の私は会社員でしたが、その影響もあってか年を重ねるにつれ「自分にも一人で出来る仕事ができないだろうか?」と考えるようになりました。そんなときに読んだのが、西荻窪で古書店を営む方の本です。もともと本が好きだったことに加え、古本の仕事に自由で生き生きした魅力を感じました。その後、著者に頼み込んで、その方が経営される古書店でアルバイトとして雇ってもらい、5年ほど修行をさせていただきました。そして2022年9月、経堂西通り商店会で「ゆうらん古書店」をオープンしました。

お店に並べている本は、全部で大体7000冊くらいです。お店のコンセプトは、近隣に住まわれる方々が日常的に本を売買できる、入りやすくて出やすい店。品ぞろえは、ものづくりをする方々に役に立ちそうな本や、私自身が好きな海外文学を特に充実させたいと考えています。

経堂周辺には、デザインや映画、音楽関連の仕事に携わる人も多い。そういった方々に役立つような本が充実するよう心がけている

経堂周辺には、デザインや映画、音楽関連の仕事に携わる人も多い。
そういった方々に役立つような本が充実するよう心がけている

採択されて良かったことと、助成金の手続きで苦労した点や解決方法があればお聞かせください

家賃の4分の3が助成されたのが何より大きかった

「若手・女性リーダー応援プログラム助成事業」があることは、行きつけの飲食店を営む友人夫婦から聞きました。二人からは個人店を長く続ける先輩としてたくさん相談に乗ってもらった上、元々内装の仕事をされていたこともあり、開店にあたっては内装工事まで手掛けていただきました。

お店の広さは7坪ほどです。地元に古書店ができることを大家さんが喜んでくれたこともあり、駅から徒歩3~4分という立地にもかかわらず、良心的な賃料で貸していただけました。それでも年間の家賃総額は相当になりますが、その4分の3を一定期間助成してもらえるのはとてもありがたかったですね。他にも開業の際に、店頭に設置したテントやエアコンの購入費やホームページ制作費に対し、約38万円の助成を受けました。

助成を受けるためには書類審査と面接審査に通過する必要がありますが、中でも書類審査は難関でした。会社勤めをしていた頃も古書店で修行していた頃も、事業計画を作った経験などありませんでしたから。そこで、頭をひねりながら書いた事業計画書などを、先述した飲食店オーナーご夫妻や、役所勤めをしている知人に読んでもらいました。「この書き方は回りくどくてわかりづらい」など、率直なアドバイスをもらえて助かりました。また、経堂で文房具店や雑貨店を営んでいる友人からも教わることが多かったです。

開業資金を節約し、理想的な本棚を作るため、友人夫婦と今村さんご自身で内装工事を行った

開業資金を節約し、理想的な本棚を作るため、
友人夫婦と今村さんご自身で内装工事を行った

開業に向けてどのように準備をしましたか?

古書店で修行し、経営のために必要な技術や知識、お客さまとのやり取りへの姿勢を学んだ

私は古書店で5年ほど修業し、この仕事に必要な多くのことを学びました。まずは技術的なこと、本の具体的な扱い方です。扱うのは古本ですから汚れた状態で仕入れることも多いのですが、出来る限り最良の状態になるようクリーニングや補修をします。それから本の陳列の仕方です。どういう本をどんな風に並べれば、お客さまから手に取ってもらえるのかという工夫を、魅力的な書店は毎日欠かさないでいると思います。

最も大きかったのは商品の値付けや買い取りに際して、「お客さまに喜んでもらえる金額に鋭敏でいることの重要さ」を、師匠から直接教われたことです。売買に来てくださった目の前のお客さまを大切にし、なるべく喜んでいただく。言葉にすると当たり前のようですが、実際にやり続けることは簡単ではないと思います。古本屋というと少し浮世離れした仕事のように思われるかもしれませんが、実際には世の中の動向や流行とも密接です。お客さまとのやり取りや世の中のニュース、毎日扱う本や自分が本を買いに行く書店からも学び続けなければならないと思います。

本を店頭に並べる前に、専用の洗剤などを使ってクリーニング。古本をなるべくいい状態に整えるために欠かせない一手間だ

本を店頭に並べる前に、専用の洗剤などを使ってクリーニング。
古本をなるべくいい状態に整えるために欠かせない一手間だ

商店街での具体的な活動内容や、商店街活動に参加して得られるメリットをお聞かせください

近隣の店同士が互いに恩恵を与え合うことも多い

店舗を一人で経営しており、お祭りなどのイベントへの参加は難しいため、商店街に対して十分な貢献ができているとは言えないと感じています。ただ、経堂西通り商店会の皆さまには本当に良くしていただいています。助成金の申請時には、会長さんに助成金申請に必要な書類への署名をいただきました。また、近所の喫茶店から紹介されたお客さまに本を買っていただいたり、反対に、当店で本を買った方がその喫茶店でお茶を飲みながら本を読んだりされることもあります。そのように、商店会のお店同士が互いに恩恵を与え合う関係は少なくないのではないでしょうか。

同じ商店会のベテラン経営者の方々は、私のような新米経営者にとって学ぶべき存在です。地道に上品に、そして長く商売をされている先輩方の姿は、見習うべきことが多いと感じますね。私も、地元に関わりのある作家の本を数多く取り扱ったり、世田谷美術館の展示に合わせた棚を設けたりと、ささやかなことですが経堂の町に少しでずつでも貢献できる店になれればと考えています。

今後の展開について

毎日コツコツと、少しでも良い店にしていきたい

人を雇ったり店舗を増やしたりすることは考えていません。この店の質を高め、5年、10年と続けていくことに尽きます。そのためには当店に足を運んでくださったお客さまに「来て良かった」と思っていただけるよう、良書を良い状態でそろえ、誠実に買い取りを行うことを日々コツコツとやっていきたいと思います。

良書がまとまって入荷した際にはX(旧Twitter)で発信することもあります。ただ、SNSはあくまで実店舗の延長線上にあるものと考えていますので、よく来店してくださる方々のことをある程度イメージしながら投稿しています。

私は古書店の未来は決して暗くないと考えています。紙の本には固有の魅力があり、今後もそうあり続けるはずだからです。本を読む人が減っていることは間違いありませんが、私の店には毎日お客さまが訪れます。本を買って喜んでくださる方の顔を見ていると、本を必要とする人はこれからも居続けるのではないかと希望が持てるのです。

今村さんが運営するXアカウント@yurankoshotenの入荷情報を見て来店する方も多い

今村さんが運営するXアカウント@yurankoshotenの
入荷情報を見て来店する方も多い

店舗開業を目指す方へアドバイスをお願いします

自分で判断して仕事を進められるのが開業の魅力

勤め人をしていた頃よりも、今の仕事の方がずっと好きです。一番いいのは、自分の責任で仕事の判断ができること。会社員時代には、上司の判断を仰ぐことも業務の一環でしたが、今は自分がいいと思える店づくりを、自分のやり方で目指せるところにやりがいがあります。もちろん、判断ミスで失敗することもありますよ。ただ、それも勉強になりますし、失敗を糧に別の方法を模索することができます。

助成金事業への申請は決して簡単ではないと思いますので、ハードルの高さを感じている人もいるかもしれません。私も時間や労力がたくさんかかりました。でも振り返ると、やって良かったと思います。書類審査や面接審査の準備をすることで、開業資金や売り上げとして必要な金額が具体的になりました。また、「自分がどんな店をやりたいのか」ということを明確な言葉にできたのも、必要書類の作成を通してです。あのとき立てた経営方針は、今も店を運営する際の柱になっています。それに、書類審査のために作った事業計画は金融機関でお金を借りる場合などにも役立つので、無駄になることはないかと思います。

自分で判断して仕事を進められるのが開業の魅力

店舗情報

店舗名 ゆうらん古書店
代表者名 今村 亮太
商店街名 経堂西通り商店会
開業年月 2022年9月
URL https://yurankoshoten.com/
SNS
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取材日:2024年12月26日