採択者の声

料理屋 幸森

地域密着型和食料理店 料理屋 幸森

  • 品川区 二葉神明商店会
  • 若手・女性
  • 開業

商店街の皆様がお客さまになってくれるのが最大の利点。
他にも、良い食材を教えてもらえるなどのメリットもあります。

事業内容をお聞かせください

子ども連れで和食と日本酒を楽しめる店を地元でオープン

私は品川区の下神明で生まれ育ち、新橋の和食料理店で修業した後、銀座や日本橋の料理店で料理長を務めてきました。独立を考え始めたのは子どもが生まれる前くらいからで、本腰を入れて物件を探し始めたのは長女が生まれてからです。週末、運動会などの子ども行事に参加したいと思っても、料理店勤めだと休むのが難しいものです。でも、自分で店を構えれば時間の融通が利きやすくなって家族と過ごす時間がとれると考え、独立を決意しました。

地元で店を出すことは、以前から決めていました。大井町のオフィス街と下神明の住宅街から近くて、平日も土日も商売が成り立つこと。そして、家賃が品川や新橋などに比べると手頃だったのが最大の理由です。

当店のコンセプトは、「子ども連れで、土鍋ご飯とお刺身と日本酒を楽しめる店」です。親はお子さんが行きたがる店を選びたいと思うものですから、子どもに好かれる店にすることで来店客数を増やそうと考えました。メニューはそういったターゲットを狙ったものですし、低い場所に危ないものを置かないようにするなど、子どもが過ごしやすい店作りも心がけています。それが功を奏してか、2020年8月のオープン直後はコロナ禍の最中にもかかわらず、それなりの売り上げを確保できました。そして今は、開店直後の2倍ほどの売り上げが得られており、まずは順調というところです。

地元の人々はもちろん、幸森さんが以前勤めていたお店時代からのファンも遠くから足を運ぶ。テレビ番組などで取り上げられたこともある評判の店だ

地元の人々はもちろん、幸森さんが以前勤めていたお店時代からのファンも遠くから足を運ぶ。テレビ番組などで取り上げられたこともある評判の店だ

「家族で楽しめる」というコンセプトを実現するため、小上がりの高さを低く抑え、子どもでもスムーズに上がれるようにしている

「家族で楽しめる」というコンセプトを実現するため、小上がりの高さを低く抑え、子どもでもスムーズに上がれるようにしている

採択されて良かったことと、助成金の手続きで苦労した点や解決方法があればお聞かせください

助成金申請のため事業計画を練り上げたことが経営面でプラスに

助成金の申請には事業計画書の提出が必要ですが、私には作成した経験が全くありませんでした。ところが運のいいことに、趣味のバスケットボールチームで一緒にプレイしている仲間の中に、銀行勤務の人がいたのです。彼に事業計画書を添削してもらったことで、内容を大きく改善できました。

私は開業に先立って、地元の信用金庫から数百万円の融資を受ける予定でした。ところが助成金を得たことで、信用金庫からの借り入れを半額程度に抑えられたのは大きかったです。また、助成金申請のために事業計画を練り上げたことが、経営面でプラスに働いたと思います。今振り返れば最初の頃は、お店のコンセプトも売り上げ予測も漠然としていました。しかし何度も事業計画書を書き直す間に、そのあたりが明確になりました。それも、来店客数を伸ばすのに役立ったと感じます。

申請時に一番苦労したのは、面接審査でのプレゼンテーションです。最初に原稿を作って読んでみたところ、予定時間を大きく上回ってしまいました。言いたいことを削りに削り、ストップウォッチ片手に何度もリハーサルをして、ようやくプレゼンをまとめることができました。

大人気メニューのお子様プレート。助成金申請のために事業計画を練る中で、子どもをメインターゲットにする方針が固まっていった

大人気メニューのお子様プレート。助成金申請のために事業計画を練る中で、子どもをメインターゲットにする方針が固まっていった

開業に向けてどのように準備をしましたか?

公社セミナーで経営知識を学び、先輩からは経験談を聞いた

調理や接客スキルは飲食店勤務時代から磨いていましたが、マーケティングや経営の知識には不安がありました。そこで開業を目指し始めた時期に、品川区の地域振興部商業・ものづくり課(R6年4月現在:地域産業振興課)に出向いて相談をしています。また、開業準備期にたまたま中小企業診断士の資格を取った妻から公社の存在を教えてもらい、「TOKYO起業塾」の入門コース(1日間)と実践コース(3日間)にも参加しました。ちなみに、一緒のセミナーで学んだ人たちとは、今も連絡を取り合っています。

セミナーでは、マーケティング戦略や財務などの知識を学びました。その教えに従い、店舗物件を探す時期には、出店候補地近くの駅の乗降客数や近隣住民の平均世帯年収などを調べました。なお、私は地元で店を出したので、近隣にどのくらいの人通りがあるかなどは体感としてつかめていました。全く知らない土地で開業するより、地縁のある土地を選ぶ方がずっと有利です。

かつての同僚で、すでに独立を果たしていた先輩たちと会い、実践的なノウハウをたくさん学びました。バスケ仲間の銀行員もそうですが、融資や事業に詳しい知人からたくさん話を聞いておくと、開業の成功率は高まると感じます。

商店街での具体的な活動内容や、商店街活動に参加して得られるメリットをお聞かせください

顧客はもちろん、よい食材を紹介してもらえることも

同じ商店街の皆さんがお客さまになってくれるのは、シンプルにありがたいです。また、商店街仲間の紹介で、お食い初めや七五三後の食事会に使っていただくこともあります。バスケ仲間などの紹介で来てくださるお客さまもいますし、飲食店にとって、リアルな口コミの力は大きいといつも感じています。

商店街の皆さんとの絆が強くなると、信頼できる食材を手に入れやすくなります。例えば、私は料理に使うお米を数軒となりのお米屋さんから仕入れているのですが、「今年は○○米のできがよかったよ」「こういう料理を出すなら、このお米が合うよ」などと教えていただいています。

商店街の皆さんには商売柄、夜の会合に出られないことを理解していただいています。活動としては、商店街のお祭りの時に、ポップコーンや綿あめづくりなどをしています。ただ、子どもと一緒にワイワイやっているので、負担より楽しみの方がずっと大きいです。

ランチ用のお米は近所の米店から、ディナー用は山形県の農家から仕入れている。お店の特色でもあるお米と日本酒には、とことんこだわっていると幸森さん

ランチ用のお米は近所の米店から、ディナー用は山形県の農家から仕入れている。お店の特色でもあるお米と日本酒には、とことんこだわっている

今後の展開について

新メニューの開発などに力を入れ、長く続く店にしたい

私は人を使うのが好きではありませんし、何より、目の前のお客さまと向き合って喜んでいただくのが楽しいのです。そのため、今は2軒目、3軒目を出すつもりはありません。まずは、このお店をきちんと続けることを目指したいです。

そのためには、楽しく飲み食いしてもらえるような努力を続けなければなりません。中でも、新メニューの開発は欠かせないですね。最近では、クリームチーズの西京焼きを新たに出し始めました。また、ふぐ白子の天ぷらやカキの天ぷらもメニューに加えましたし、お客さまからの要望に合わせてスッポン雑炊も提供しています。

現時点では、お客さまの6割くらいが地元の方々だと思います。テレビなどで取り上げてもらったおかげで、県外からご来店いただくケースも珍しくありません。また、以前勤めていたお店の時代からごひいきにしてくださるお客さまにも、定期的にご利用いただいています。

今のご時世、SNSを使った情報発信も大切でしょう。私の場合、インスタグラムとフェイスブックでは、その日に仕入れた食材や新メニューなどのオフィシャル情報を発信しています。SNSで話題になったことがきっかけで、お店に来てくださる方もいらっしゃいます。一方、X(旧ツイッター)では個人的な話題について発信していて、こちらは常連客の方との話題のタネになっています。

お店のメニュー表。旬の食材を取り入れたり新メニューを提供したりして、来店客を飽きさせない工夫を続けている

お店のメニュー表。旬の食材を取り入れたり新メニューを提供したりして、来店客を飽きさせない工夫を続けている

土鍋で作る炊き込みご飯は名物の1つ。また、幸森さんが豊洲から仕入れている魚を使った刺身類も人気が高い

土鍋で作る炊き込みご飯は名物の1つ。また、幸森さんが豊洲から仕入れている魚を使った刺身類も人気が高い

店舗開業を目指す方へアドバイスをお願いします

開業したいなら、さまざまな人とのご縁を大切に

飲食業は基本的に立ち仕事ですし、仕入れや仕込みなどを含めると、労働時間も長いです。また、独立には資金の確保やノウハウの勉強などが不可欠ですし、面倒な手続きだってしなければなりませんから、それなりのエネルギーが求められます。ですから、開業するなら体力とやる気のある若いうちから取り組むといいと思います。

それから、開業したいなら人とのつながりを大事にすべきです。私の場合、独立準備期間中も独立後も、バスケ仲間や地元の友人、そして商店街の皆さんからたくさん支えられています。

開業時にはかなりのお金がかかりますから、助成金は開業志望者にとって本当に支えになります。ただ、助成金を受ける側には責任も生じると、私は考えています。支援していただくからには、きちんと努力して成果を出さなければなりません。つまり助成金は、開業者に覚悟をさせてくれる存在でもあるのです。

rojicoyaの一角には三味線や琴、武士道体験用の模造刀などが置かれている。常設の店舗を開設したことで、和文化の情報発信はより効果的になった

店舗情報

店舗名 料理屋 幸森
代表者名 幸森 洋一
商店街名 二葉神明商店会
開業年月 2020年8月
SNS
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取材日:2023年11月8日