採択者の声

路地裏寺子屋rojicoya(ろじこや)

男性向け個室美容室 Tim hair gallery

  • 西東京市 柳盛会柳沢北口商店街
  • 商店街
  • 開業

商店街には長年にわたって商売を維持してきた先輩経営者がいます。
彼らの助言や情報を聞ける点も、商店街活動の大きなメリットです。

事業内容をお聞かせください

西東京市で、男性でも気軽に入れる美容室を経営

私は西東京市にある「柳沢北口商店街」で、男性向け美容室「Tim hair gallery」を営んでいます。

現在の業態で開業したのは、ほとんどの美容室は女性がメインターゲットであるため、競合の少ない男性専門の美容室なら他店と差別化が図れるのではと考えたからです。男性でも気軽に利用できる雰囲気にするため、店内はモノトーンでシンプルな作りにし、あえて個室型の店にしました。

その結果、開店からわずか2年あまりでたくさんの男性が新規顧客になってくれました。現時点で、お客さまの約3割は以前勤めていた美容室から引き続きごひいきにしていただいている女性ですが、残りの7割を占める新規客は、すべて男性です。来店客数は順調に伸びていますし、従業員を雇わず私だけでお店を切り盛りしているため、高い営業利益率を維持できています。

店内はモノトーン基調。個室型で他の来店客と一緒になることがないため、美容室に慣れていない男性客でも気後れせずに済む

店内はモノトーン基調。個室型で他の来店客と一緒になることがないため、美容室に慣れていない男性客でも気後れせずに済む

店内には段差を極力少なくし、入り口は大きなドアを採用した。そのため、車椅子のまま入店してもらい、そのままカットすることも可能

店内には段差を極力少なくし、入り口は大きなドアを採用した。そのため、車椅子のまま入店してもらい、そのままカットすることも可能

採択されて良かったことと、助成金の手続きで苦労した点や解決方法があればお聞かせください

助成金を得られたことで資金繰りがグッと楽になった

開業時に西東京市の創業融資あっせん制度を利用したのですが、その際に「西東京創業支援・経営革新相談センター」で中小企業診断士のアドバイスを受けることが条件でした。「商店街起業・承継支援事業」の存在は、その中小企業診断士の方から教えてもらいました。

助成金申請に欠かせない事業計画書は、さほど悩むことなく作成できました。独立前に店長を務めていた美容室の社長がとても経営センスのある人で、私はその方から、経営者としてのスキルを学べていたからです。また、私は若い頃に芸人をしていた経験がありましたから、面接審査で求められるプレゼンテーションについても苦手意識はありませんでした。

助成金を得られたことで資金繰りの面ではとても助かりましたし、助成金の申請をする際に作成した事業計画書はその後、別の助成金や融資に申請した際にも役立ちました。助成金に採択されたことで、金融機関からの信頼も高まったと思います。また、事業計画書を実際に作ったことで、頭の中にあったアイデアが具体化したのも大きなメリットでした。

開業に向けてどのように準備をしましたか?

競合が参入しづらい環境を確認して出店場所を決定

美容室の開業には、美容師のスキルだけでなく、経営者としての知識も不可欠です。そこで意外に役立ったのが、ネットやメールマガジンを通じた情報収集でした。
世の中のトレンドを知るため、普段からネットニュースはこまめにチェックしています。また、著名な経営者やコンサルタント、IT関係者が発行している有料のメールマガジンもいくつか購読中です。個人的には、有料の情報にはそれだけの価値があると思いますので、投資だととらえ情報にお金をかけています。

開業前には、いくつかの出店予定地を見学して情報を集めました。西武柳沢駅近くにお店を出した決め手は、主に3つあります。1つ目は、以前勤めていた美容室から電車で約15分しかかからず、昔なじみのお客さまの来店が期待できたこと。2つ目は、当時住んでいた家から近く、家族と過ごす時間がたっぷりとれること。そして3つ目が、「西武柳沢駅の乗降客数が他の駅より少なかったこと」でした。これは一見すると悪条件のように思えますが、そうではありません。乗降客数が少ないからこそ家賃は安く抑えられますし、商圏を調べてみると十分な市場があると確認できたのです。そして何より、乗降客数が少ない駅には競合他社が入ってこないという大きな利点があります。私の店が顧客を確保してしまったら他の美容室が入る余地がないと判断できたため、西武柳沢駅での開業を決めました。

美容室があるのは、西武新宿線の西武柳沢駅からほど近い場所。競合が入りづらい環境だと分かったため、有馬さんはここでの開業を決意した

美容室があるのは、西武新宿線の西武柳沢駅からほど近い場所。競合が入りづらい環境だと分かったため、有馬さんはここでの開業を決意した

商店街での具体的な活動内容や、商店街活動に参加して得られるメリットをお聞かせください

地域からの信頼と、先輩経営者からの助言が得られる

私は今、商店街で理事を務めています。

私はブログやSNSで情報を発信していますが、お店を長期的に経営していくには口コミが大きな役割を果たします。そういう意味で、商店街に参加して地域の皆さんからの信頼を勝ち得るのは重要です。例えば、当店は先日、地元にある小学校の児童に仕事の様子を見学してもらう「店舗訪問」を受け入れました。こうしたイベントを依頼されたのは、商店街に参加して地域からの信頼度が高くなっていたからです。

小学生の店舗訪問が、売上アップに直接役立つわけではありません。当店は客単価の高いサービスしか提供していないので、子どもの髪をカットすることはほぼないのです。ただ、子どもたちからの評判が伝わって、ご両親やご親戚、近所の方が来店するケースはよくあります。また私は、店舗訪問してくれた子どもたちが作ってくれた手書きのポスターを、店の入り口に飾っています。こうして地域から支持されていると伝えることは、店のPRにとても役立ちます。

信頼できる人とたくさん会えるのも、商店街活動の良いところです。経営者や個人事業主は孤独で、相談する相手はなかなか見つかりません。ですが、商店街には長年にわたって商売を続けてきた先輩たちがいます。そういう人から勉強になる話を聞かせてもらったり、時には耳の痛い助言をいただいたりするのは、貴重な機会だと思うのです。また、商店街の人しか知らない情報や地元での商売に役立つノウハウをもらえたりもしますから、商店街活動にはぜひ参加すべきだと思います。

店の入り口に飾られた、近所の小学生たちが作ったポスター。店の良い部分を嫌みのない形で伝えており、効果は高いと有馬さんは語る

店の入り口に飾られた、近所の小学生たちが作ったポスター。店の良い部分を嫌みのない形で伝えており、効果は高いと有馬さんは語る

今後の展開について

「地域×潜在的ニーズ」で新事業創出を目指す

今の店は、個室でお客さまに一対一のサービスを提供するスタイルです。そのため、従業員を増やして店を拡大するつもりはありませんし、二号店を開いたりする予定も立てていません。ただ、美容室とは別の業態で新規事業を立ち上げたいとは思っています。

私は2022年、美容室の横に、無人カフェの「siesta(シエスタ)」をオープンしました。これは、散歩や仕事などの途中に立ち寄って一息つける休憩スポットです。無人で店舗を運営しながら地域の盛り上げに役立ちたいと考えて企画したもので、「西東京市ビジネスプランコンテスト2022」では賞をいただきました。

今後もニーズがありそうな市場をいち早く見つけ、1年に1つくらいのペースで地域に根ざした新事業を展開していくつもりです。そしてその先に考えているのが、老人ホームの運営など高齢者向けビジネスへの進出です。siestaでは、認知症の方やその家族の相談に乗る「まちの保健室」や、高齢者の方と近所の別店舗までお話をしながら歩き、ご飯を食べる「まち歩き」などのイベントを定期的に開催しています。今後も、高齢者のニーズを探りながら、自分にできることを模索したいと考えています。

男性向け美容室というコンセプトは、「地域×潜在的ニーズ」という切り口で作り上げました。シニアビジネスでも、同じ発想で新規ビジネスが作れるのではないでしょうか。

無人カフェsiestaの店内。地域貢献を目指すだけでなく、人件費をかけず在庫を最小限に抑えるなどの工夫も行っている

無人カフェsiestaの店内。地域貢献を目指すだけでなく、人件費をかけず在庫を最小限に抑えるなどの工夫も行っている

店舗開業を目指す方へアドバイスをお願いします

自分のやりたいことと市場のニーズが重なるところをとことん模索してみる

独立開業するとき、自分のやりたい事業をやろうと考える人は多いと思います。美容師も大多数は、「女性のお客さまを美しくしたい」と考えて店を開きます。ですが、そうして参入した市場の競争環境が苛烈だったり、あるいは、そもそもニーズ自体が存在しなかったりしたら事業は成り立ちません。

実は私、コーヒーが飲めませんし、カフェにも行きません。だからこそ無人カフェsiestaでは、自分のやりたいことをお客さまに押しつけたりしないのです。売り手の論理を基準にした「プロダクトアウト」で発想すると、失敗の危険性は高くなります。あくまで、買い手のニーズを優先する「マーケットイン」の発想を大切にすべきです。

ただ、「自分のやりたいこと」を追い求めたい気持ちは分かります。だったら、自分のやりたいことと市場のニーズが重なり合う場がないか、とことん模索してみましょう。実際にビジネスを始めて顧客の反応を確かめたら、それに合わせてこまめに商品やサービスを修正していくことが、成功の秘訣だと思います。

店舗情報

店舗名 Tim hair gallery
代表者名 有馬 壮一郎
商店街名 柳盛会柳沢北口商店街
開業年月 2021年9月
URL https://tim-hair.com/
SNS
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取材日:2023年11月30日