採択者の声

路地裏寺子屋rojicoya(ろじこや)

日本茶カフェ、和文化体験・空間・観光プロデュース 路地裏寺子屋rojicoya(ろじこや)

  • 足立区 千住旭町商店街振興組合
  • 若手・女性
  • 開業

地域・商店街と良い関係性を築いていれば、商売にも良い流れが生まれます。
今後は近隣のお店や官学とも協働し、大好きな北千住を国内外に売り込みたいです。

事業内容をお聞かせください

北千住にて書道や三味線、武士道などが体験できる場を提供、観光プロデュースも

路地裏寺子屋rojicoya(以下「rojicoya」)は、足立区北千住駅近くの路地裏にある築90年の古民家を改装した「和文化体験スポット」です。書道、三味線、華道、武士道といった和文化を体験できるほか、日本茶カフェも併設しています。自治体の和文化での町おこしコンサルや観光庁、東京観光財団事業のコンテンツ造成なども行っています。

私は子どもの頃から書道を習い始め、最終的には師範の免許を取りました。そして大学時代は、医療系の学部に通うかたわら、バックパッカーとしてアジアの発展途上国などを旅しました。その時、現地の子どもたちが自国文化に誇りや愛着を持ち、自信に溢れている姿が心に残りました。お互いの文化の違いは刺激や学びを与え、相互理解は成長発展へ繋がる。これこそが真のグローバル社会による恩恵ではないかと思っています。国際的に活躍するためのコミュニケーション力を身につけるためにも、私たちのルーツである日本の文化のことをもっとよく知り、大事にすべきだと感じたのが私の原点です。

私は大学卒業後に看護師として働き始め、結婚・出産を機に退職しました。その後は訪問看護などの短時間労働をしながら子育てをしていましたが、2018年頃から書道講師、書道家としての活動を始めました。その縁で茶道や華道の先生と出会い、皆さんとコラボして和文化イベントを主催する機会が増えていったのです。そして、イベント参加者から継続的に和文化を体験できる場がほしいと要望されることが増えたため、2020年にrojicoyaを開業しました。

rojicoyaは和文化が体験できるだけでなく、日本茶カフェも兼ねている。また、落語会や演奏会などのイベントも定期的に開催している

rojicoyaは和文化が体験できるだけでなく、日本茶カフェも兼ねている。また、落語会や演奏会などのイベントも定期的に開催している

米本さんは「なすご龍芳」という名前で、書家・アートセラピストとしても活躍中。rojicoya内にも米本さんの作品が飾られている

米本さんは「なすご龍芳」という名前で、書家・アートセラピストとしても活躍中。rojicoya内にも米本さんの作品が飾られている

採択されて良かったことと、助成金の手続きで苦労した点や解決方法があればお聞かせください

コロナ禍で来客が見込めない中、助成事業で運転資金を確保

rojicoya開業前に開いていた単発の和文化体験イベントでは、1回あたり数百人規模の集客ができていました。そのため、開業しても何とかなるという自信はありました。ただ、経営は初めてです。損失を出して家族に迷惑をかけることは避けたかったので、事前に経営ノウハウを学んでおこうと思いました。そんなとき、主宰したイベントに協賛してくれた金融機関から「だったら公社に相談するといいよ」と勧められて利用したのが、ワンストップ総合相談窓口です。ここで、起業者向けにさまざまな助成事業があることを知りました。

当初はビジネスパートナーとお金を出し合い、自己資金だけで開業する予定でした。ところが開業準備を本格的に進めていた2020年春、新型コロナウィルスの感染拡大が始まりました。すでにいろいろな方を巻き込んでいましたし、やってみたい!という気持ちも強かったため、厳しい状況でしたがあえて開業への道を選びました。ただ、数カ月間は売り上げが見込めなかったため、予算の確保に「若手・女性リーダー応援プログラム助成事業」の申請を行いました。

申請には事業計画が不可欠でしたが、前職が看護師だった私にその経験はありません。そこで足立区の企業経営支援課や公社のワンストップ経営相談窓口に出向き、書き方のポイントを教わりました。イベント開催の実績が豊富だったので、事業内容や集客見込みについてはすんなり書けましたが、売り上げ予測については甘いと指摘され、何度か修正しました。

なお、助成金が支払われるまでには数カ月かかります。そこで区の無利子の創業融資とクラウドファンディングで当座をしのぎました。

開業に向けてどのように準備をしましたか?

公的な相談窓口を確認し、必要な知識をその都度身につけて課題に対処

開業に必要だったのはお金、知識、事業計画以外に、講師陣や舞台監督などとの人脈、集客のノウハウ、融資に関する知識あたりでしょうか。ただ、自身が講師でもあり、他講師との人脈や集客ノウハウについては単独イベントを開いていた頃から持っていましたので、その点は開業に合わせて特に準備したというわけではありません。一方、許認可や税金、労務、融資など新たに求められる知識については相談ができる公的な相談窓口をあらかじめ確認しておき、必要に迫られるごとに相談して知識を身につけてきました。

店舗については、人のご縁で決まりました。私は北千住で親子向けイベントを頻繁に開催していたのですが、その活動を応援してくださっていた古民家物件のオーナーさんが「この古民家を拠点に使っては?」と提案してくださったのです。私は大学時代から北千住に住み、風情があって暖かな土地柄が大好きでした。行きつけの店も多い北千住の商店街で古民家を借りないかとお声掛けいただいたのに運命を感じて、ここで開業しようと決めました。

商店街での具体的な活動内容や、商店街活動に参加して得られるメリットをお聞かせください

宣伝の支援や人の繋がりなどが得られて商売が広がる

rojicoyaは商店街のメインストリートから少し奥まった場所にあるため、通りの角に看板を設置しています。このときに商店街からの許可が必要なのですが、日頃から商店街と良い関係を築いているため、すんなり許可を得られました。また、rojicoyaでは収まりきれない大イベントを開くときは、町会の人しか借りられない会場を商店街理事長の紹介で借りることができました。商店街との関係性が悪い店だとこうはいかないでしょう。

商店街の皆さんは基本的に、若い世代の起業家を歓迎してくれます。私たちのような新米経営者が新店舗を構えて新たな客層を呼び込むのは、商店街にとっても嬉しいし、刺激になるとよく言っていただけます。また、商店街活動を通じて人脈が広がったり、新たなお客さまやパートナー企業、メディアを紹介してくれるチャンスが得られたりするのもメリットです。

一方、商店街活動の負担はかなり軽いです。年1回の総会をはじめ、定期的に会合に出る必要はあるのですが、出席しなくてもペナルティが発生するわけではありません。私には3人の子どもがいますから、「子育てがあるので夜の会合は代理を立てます」と言えば、受け入れてもらえます。物怖じする必要はないと思います。

商店街の一角に設置されたrojicoyaの立て看板。商店街に参加し良い関係を築いているからこそ、看板設置の許可もスムーズに得られた

商店街の一角に設置されたrojicoyaの立て看板。商店街に参加し良い関係を築いているからこそ、看板設置の許可もスムーズに得られた

今後の展開について

街を巻き込みつつ、和文化の市場拡大にインバウンド需要を取り込む

私たちの事業の要である和文化には、その担い手が必要不可欠です。しかし、現在の日本では、不況や後継者不足などによって伝統工芸の担い手が次々と廃業に追い込まれています。一方、rojicoyaの和文化体験イベントにはたくさんの外国人観光客が参加し、日本でしかできない体験をされています。こうしたインバウンド需要をうまく取り込めば、伝統工芸士や芸能の皆さんが活躍する場を増やせると思うのです。また、日本文化の良さを改めて認識することは、私たちの誇りになると思います。

rojicoyaだけで外国人を呼びこもうとしても限界があります。そこで私は足立区、JR、信用金庫、旅行代理店、ホテル業などに声をかけ、自主的に足立区インバウンド推進協議会「ANABA JAPAN ADACHI」を立ち上げました。地域として協働し、他の地域や海外に情報発信してインバウンド需要を取り込む予定です。すでにフランス、トルコやモンゴル、台湾などからツアー相談が来ています。いずれは、海外での北千住の知名度を浅草や上野と並ぶくらいまでに高めたり、北千住発の和文化発信拠点を海外に作って公演や発信強化につなげたりすることで、将来的に和文化による町おこしのモデルケースになれたらと思っています。

そのために今後も、和文化の良さを伝える取り組みを続けていきたいです。

rojicoyaの一角には三味線や琴、武士道体験用の模造刀などが置かれている。常設の店舗を開設したことで、和文化の情報発信はより効果的になった

rojicoyaの一角には三味線や琴、武士道体験用の模造刀などが置かれている。常設の店舗を開設したことで、和文化の情報発信はより効果的になった

店舗開業を目指す方へアドバイスをお願いします

熱意の盛り上がる時期を逃さず小規模開業を目指そう

起業を目指す際に、「すべてを捨てて商売に打ち込まなければならない」と思い込んでいる人は珍しくありません。でも、商売はごく小規模でも始められますし、子育てや本業をしながら手掛けることも可能です。時間は有限です。もしやりたいなら、気持ちが盛り上がっているうちに小規模でもはじめてみてはいかがでしょうか。そして世情やお客さまからの反応を確かめながら軌道修正していくことが、ある意味では近道です。

それから、世の中には無料で利用できるサービスがたくさんあることも知ってもらいたいです。私には書道のスキルや人脈はありましたが、お金や経営の知識は全く足りませんでした。しかし公社や市区町村の窓口に相談した結果、必要なものが手に入りました。公的機関は創業者を増やしたいと思っていて、さまざまなサービスを提供しています。それらの中から自分に合ったものを選んで利用すれば、起業の成功率はグッと高まるはずです。みなさんの決意、応援しております!

rojicoyaの一角には三味線や琴、武士道体験用の模造刀などが置かれている。常設の店舗を開設したことで、和文化の情報発信はより効果的になった

店舗情報

店舗名 路地裏寺子屋rojicoya
代表者名 米本 芳佳
商店街名 千住旭町商店街振興組合
開業年月 2020年10月
URL https://rojicoya.jp/
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取材日:2023年11月29日